【論文】キャラクターデータベース化とソーシャルゲームのイラスト制作からヒットキャラの創り方を考察する


お久しぶりです。今回は一風変わった内容をお送り致します。株式会社フーモアで活躍している作家さんがイラストに関する論文を書いて下さいました。本当に論文ですね。。奥が深そうです。

フーモアの芝辻です。フーモアでは今現在自社のオリジナルIPの制作にとりかかっているところです。その一環としてヒットキャラを創る方法も模索しているところです。弊社内で蓄積したナレッジはこちらで随時公開していこうと思います

以下アジェンダです。

それではどうぞ。

1.序論

1-1 研究の背景

 本論文でキャラクターのデータベース化について研究をしようと思ったのは、イラストを作成してた時にあることに気がついたからだ。私は悪魔や天使を描くときに、無意識に物語をデータベース化していた。例えば、鳥のような羽や光の輪をつけていれば天使に見える。角やしっぽ、コウモリの羽を生やせば悪魔に見える。このような自分の中にインプットされているデータを使い、自然とイラストに反映させていた。
 私は「西洋ファンタジー」をはじめ、様々な物語に登場するキャラクターのデータベース化が進んでいるのではないかと考えた。実際、キャラクターを作る際は、天使などの種族から連想できる要素を組み合わせて作っている。しかし本当にキャラクターのデータベース化が進んでいるのか疑問に感じたため、「西洋ファンタジー」を例に本当にデータベース化が進行しているのかを明らかにする必要があると感じた。そして何がきっかけでこのデータベース化が進んでいったのかを明白にし、その上でこの研究結果を何に応用できるのかを考察したい。
 そのためにまず本論文で使用する「西洋ファンタジー」の定義について次の章で説明する。

1-2 用語の定義

 小谷真理の『ファンタジーの冒険』(1998)では、ファンタジーを次のように定義している。

「魔法に代表される超自然現象、非合理的なもの、科学主義や合理主義に裏打ちされた現実の枠組みを外れてしまうような現象を扱った作品一般をさす。」(p.10)

 その中でもファンタジーは「現実とはちがうもうひとつの世界」(p.10)を創造した「ハイ・ファンタジー」と、「現実世界を舞台にして、そこに超自然的な力が侵入する」(p.12)世界を描いている「ロー・ファンタジー」に分類されている。
 この論文で使われるファンタジーは、「ハイ・ファンタジー」の中の一つである「西洋ファンタジー」のことを指す。「西洋ファンタジー」とは「剣と魔法の物語」、「神話&妖精のファンタジー」をまとめたものの呼称である。
 「剣と魔法の物語」とは、ドラゴンを代表とする各種の怪物やエルフやドワーフなどの架空の種族・民族、騎士、魔法、王家、囚われの姫君の救出が取り扱われた作品のことを指す。「神話&妖精のファンタジー」はその名の通り天使や悪魔、妖精を題材にしている。この2つのファンタジー作品の代表作には、『指輪物語』(図1)、『ナルニア国物語』(図2)があげられる。(1)

図 1:J.R.R.トールキン『指輪物語』表紙

 『指輪物語』は、『ホビットの冒険』の続編である。『ホビットの冒険』の主人公ビルボは、邪竜に奪われた魔法の指輪を取り返す旅へと巻き込まれてしまう。戦いの果てにビルボは指輪を手に入れて故郷に帰るのだが、続編の『指輪物語』ではその恐ろしい力を持つ指輪を捨てに行くための冒険が描かれている。作中に登場する妖精王やドワーフ、ドラゴンといった要素から、現代におけるファンタジーの基盤を作った作品と言える。

図 2:C.S.ルイス 『ナルニア国物語』表紙

 『ナルニア国物語』は、ライオンの姿をした神アスランによってナルニアという新世界が作られる。しかし、その新世界に邪悪な種が持ち込まれ、やがて国全体に蔓延ることとなる。その新世界の創世に立ち会った子供たちはナルニアが危機に陥ると現実世界から召喚され、ナルニアを善の存在へと導いていく。
 この2つの物語はどちらもファンタジーに旋風を巻き起こした作品として有名である。1950年に『指輪物語』が完成し、しだいに多くの読者がついた。著者のトールキンは完璧主義である性格から、他者が自分の作品に介入することを許さなかった。そのため共作などはせず、一人で独創的な世界を創りだしていった。その世界に魅せられたC・S・ルイスは、トールキンの創作方法論に啓発され『ナルニア国物語』の執筆を開始する。C・S・ルイス以外にも多くの若い作家のあこがれを誘ったその別世界創造の方法論は、その方法論自体が継承されることになる。そして1970年代に入ると、異世界をまるごと作ろうとする別世界創造のブームを起こした。これがやがて「ハイ・ファンタジー」という大きなジャンルの潮流を生み出すことになる。 80年代以降、ファンタジーは細分化が進み「ハイ・ファンタジー」の定義は幅広く利用されている。そのためこの論文では、より世界観をわかりやすく表すために「西洋ファンタジー」と呼ぶことにする。

1-3 問題提起

 「西洋ファンタジー」は、今の日本では馴染み深いものになっている。『ファンタジーの冒険』(1998)で、筆者の小谷真理は次のように述べている。

「ファンタジーということばに違和感がなくなってしまったのは、いったいいつごろのことだろう。(中略)わたしたちの日常はちょっと見回しただけでも、ファンタジー世界の住人たちですでにいっぱいになってしまったようだ。」(p.8)

 この言葉からもわかるように、今では妖精や天使、悪魔、エルフなどの「西洋ファンタジー」に関係するキャラクターが出てこないゲームの方が珍しくなってきている。それゆえに「西洋ファンタジー」はもはやキャラクターを作るデータベースになっている。
 哲学研究者の東浩紀は、物語の優位からキャラクターの優位へ、作家性の神話から物語のデータベース化へと転換しているのではないかという考察を立てている。従来では、主に土台の大きな物語があり、そこからキャラクターが産まれていた。しかし物語のデータベース化により、表層に小さな物語が生まれるようになった。大きな物語の優位から表層で生まれたキャラクターの優位へ、作家性の神話から物語のデータベース化へと転換している(図3)。(2)

図 3:物語の構造

 ここで例としてあげるのが「サンリオ」が生み出したキャラクター「ハローキティ」である。(3)ハローキティは開発当初の時点では名前が無く、背景となる物語も存在しなかった。「猫」、「リボン」などの要素を組み合わせ、幅広い層からかわいいと支持されるようなキャラクターが生まれたのだ(図4)。

図 4:ハローキティ

 つまり近代では物語の上にキャラクターが産まれるのではなく、無数の要素を組み合わせてキャラクターを産むことが主流になりつつあり、「西洋ファンタジー」に登場するキャラクターもそのデータベースの一つになっていると言える。例えばゲームに登場する天使は、鳥のような羽や光の輪など、物語の設定や宗教的な背景よりも見た目の要素が重視されているように思える。
 しかし本当にキャラクターのデータベース化が進んでいるのだろうか。現在携帯で配信されている人気アプリゲーム、『キズナバトル』のイラストと文献を通して、現在の「西洋ファンタジー」はどのように変容しているのかを説明したい。

2.本論

2-1 製作過程

 本論文で使用するのは、人気アプリゲーム『キズナバトル』の株式会社フーモアが作成した指示書を参考に作成した天使のイラストである。このイラストを西洋絵画の天使と比較し、西洋ファンタジーに登場するキャラクターのデータべース化が進んでいるのかについて検証する。
 天使は文字通り、天の使い、神の使者のことを差す。天使は翼を持っていて、鳥をイメージしていることがわかる。鳥が神の教えを伝えているという信仰は古くから存在し、精霊である鳩を放っている絵画もある。天使が増えたのはギリシアやオリエントのさまざまな神々がキリスト教に入ってきてからのことで、ゴシック・ルネサンス期になると画家たちは大勢の天使を描くようになった。(4)
 図5は1433年にフラ・アンジェリコが描いた「受胎告知」というタイトルの西洋絵画である。天使ガブリエルがマリアに神の子キリストの受胎を知らせている場面が描かれている。(4)

図 5:フラ・アンジェリコ画『受胎告知』

 この天使の風貌から、以下の要素にデータベース化できる。

表 1:西洋絵画の天使の要�

 表1が天使の要素をデータベース化したものである。そして図6が『キズナバトル』のイラスト制作を担当するフーモアが作成した指示書を参考に作成した天使のイラストだ。(5)

図 6:完成したイラスト

 このイラストのどこに先ほど提示した天使の要素があるのか。そしてどのような経過で図6のイラストが出来上がったのか。制作の過程を追いながら説明していく。
 図7はクライアントから送られてきた指示書を編集したものだ。この指示書では、西洋ファンタジーの天使要素(鳥のような羽、光の輪)に加えてアーマーを装着させることで新しさを表現した天使のイラストを作成することが読み取れる。 

図 7:指示書

 初めに指示書をもとにラフといわれる下書きを作成する(図8)。これを一度クライアントに送り、指示書の内容がイラストに正確に反映されているか確認をする。

図 8:ラフ

 ラフの確認が完了すると、クライアント側から赤い線で修正部分が描かれた画像が返却される(図9)。天使らしい可愛らしさを出すためにポーズと羽の変更が求められた。

図 9:修正点が追加されたラフ

 図9を参考にし、線画を作成する(図10)。

図 10:線画

再度クライアントに送り、修正点があったら再度修正する。修正点がなければ図11を着色し、完成したイラスト(図6)をクライアントに納品する。 
 次の章では、表1で述べた西洋絵画の天使の要素と比較し、どこが違うのか、またどこか共通しているのかについて説明する。

3.結果

 図6の現代化した天使の要素をデータベース化した結果、表2が出来上がった。

表 2:図6の天使の要�

 
そして表1のデータベースと表2のデータベースを比較をした結果が表3である。

表 3:要素の比較

 
 表2を見ると、図6の天使は髪型から始まり、西洋絵画の天使像とは大幅に離れている。西洋絵画での天使と図6の天使では髪型、服装から大きく異なる上に、性別のイメージまで違う。西洋絵画の天使は男性とも女性ともつかぬ中性的なイメージがあるのに対し、図6の天使は完全に女性で描かれている。
 そして西洋絵画の天使には宗教上の物語が用意されているが、図6の天使には宗教的な物語や設定がない。3.1でも述べた(2)「ポストモダン」の考え方を参考にすると、西洋絵画の天使は大きな物語があり、そこからキャラクターが生まれていた。それに対し、図6の天使はゲームの登場キャラクターというだけで背景となる物語はない。ミカエルがガブリエルなど、聖書で登場する天使をモデルにしてもいない。キャラクターのデータベース化により、物語の優位からキャラクターの優位へ転換していることがわかる。
 これほど大きな違いがあるにも関わらず、図6が天使と認識できるのは、鳥の翼と光の輪が描かれているからである。鳥の翼に関しては、指示書にあるアーマーを装着させて欲しいという要望に添えるよう、鳥の羽をアーマー化したものを追加した。西洋ファンタジーのデータベース化が進んだ現代において、天使は鳥の翼と光の輪という要素で構成されていることがわかる。

4.考察

 以上の結果からキャラクターのデータベース化により、物語の優位からキャラクターの優位へ転換していると言える。何故物語のデータベース化が進行したのかと言うと、インターネットの出現が関わっている。哲学研究者の東浩紀は『網状言論F改』(2003)で次のように述べている。

 「インターネットは読み込むことによって、いくらでも世界が違うように見える一つの巨大なデータベースなわけです。1989年までの世界はイデオロギーによってまとまっていたが、いまや、文化的多様性の母体となる網のイメージが優勢になっている。」(p.28)

 インターネットの普及により、今までの大きな物語は様々な観点から捉えられるようになった。そこから小さな物語が生まれ、インターネットを通してその物語を共有することも可能になった。小さな物語から背景となる大きな物語を読み込む時代へと転換していったのだ。
 そこからさらに物語の優位からキャラクターの優位へと転換していったのは、1990年代の市場の変化に現れている。1995年に現れた『新世紀エヴァンゲリオン』では、TV版の最終回で今まで語ってきた大きな物語が壊れてしまう。しかしそこで「もうひとつの可能性」として、ごく普通の学園生活を送るパラレルワールドを展開させた。大きな物語を壊し、そこからもうひとつの可能性を提示することで、本来無口なはずの綾波レイをパンを咥えて走るような明るいキャラクターとして描いた。そこにはもう元になる大きな物語はなく、物語の優位からキャラクターの優位に転換するきっかけを作った瞬間と言える(図11)。

図 11:『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイ

 『新世紀エヴァンゲリオン』以外で1990年代に影響をもたらしたのが、『デ・ジ・キャラット』のでじこというキャラクターである。でじこのキャラクターデザインは猫耳、メイド服、大きな目、アホ毛、現実ではありえない髪の色など、その当時の萌え要素で構成されている(図12)。

図 12:『デ・ジ・キャラット』でじこ

 これは現在のキャラクターの主流となる「無数の基本要素の組み合わせ」の代表例となっている。このでじこも本来は『ゲーマーズ』というゲーム系ショップのイメージ・キャラクターでしかなく、背景となる物語はなかった。しかしCMやグッズを中心にブレイクし、アニメやゲームなどの物語が作られるまでに成長した。
 現在では、「大きな物語」からデータベース化された要素が集積されたキャラクターで溢れている。 ひとつのキーワードから連想できる要素を組み合わせ、そこから生まれたキャラクターを作品の中で動かしている。天使や悪魔などが登場する「西洋ファンタジー」もそのデータベースの一つになっていると言える。
 このデータベース化を応用すれば、ゆくゆくは誰でも容易に自分の理想とするキャラクターを作成することができるのではないだろうか。現在ではインターネットの普及から、だれでも気軽に物語を作れる時代となった。それと同時に、ファンタジーの物語を作りたいと思っていても、まずどうやって作ればいいのか分からないという人も増えている。そのような人たちのために、用語や文化をまとめたシナリオ辞典、ファンタジーに登場する武器をまとめた武器辞典などをよく見かけるようになった。
 これらの辞典のように、ファンタジーにおける登場キャラクターを集め、それらを構成している要素をわかりやすくまとめることができれば、ファンタジーのキャラクター辞典を作ることがのではないかと考えている。
 しかしこれには問題がある。要素のデータベース化は難しく、細分化しようと思えばいくらでもできてしまう。その上明確な要素の定義が曖昧である。天使なら光の輪と羽があればかろうじて天使と言えるが、アーマー化などの要素が追加された場合ひと目見ただけで天使と断言するには難しい。

5.参考文献

(1)小谷真理(1998)『ファンタジーの冒険』筑摩書房(ちくま新書)
(2)東浩紀(2003)『網状言論F改』青土社
(3)『ハローキティ誕生の歴史 – ハローキティ・アクセサリーコレクション』(http://kittyc.web.fc2.com/)
(4)海野弘(2013)『ヨーロッパの図鑑 神話・伝説とおとぎ話』パイ インターナショナル
(5)『大激闘!キズナバトル 伝説の魔法学園リーグ』(http://kizuna.mynet.co.jp/)

よぉし!このみもこれでヒットするキャラクターが創れるぞーー!!!あ!!その前に絵を描く勉強をしなきゃ(汗
フーモアさんまた投稿お待ちしています!!よろしくお願いします~。

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